そもそもクレマチス属の園芸品種は、殆ど種間交配によって作出されたと言って過言ではありません。
クレマチスの中の系統の違う種類でも交雑することができます。
まして同系統の間では全く容易に交雑種ができてしまいます。

 そうなると種というものの定義や遺伝的隔離についていささか考えもするのですが、
少なくとも動物の種が持っているような種間交雑を防ぐ仕組みというものは、植物には無いのかもしれません。
植物は動物のように移動しませんし、地理的隔離と開花期の違いだけで種の独立や保存が可能なのでしょう。

 自生地では地理的隔離(高度差)があり、開花期にずれがあるため自然交雑する可能性はほぼゼロです。
ですが、自生地とは違う環境にもよく適応するこれらの原種の、植栽の条件下で交雑する可能性は
限りなく高いのです。
専門のナーサリーの栽培場に限らず、趣味栽培家の棚の上でも。


 開花期は通常ですとクリスパの方がはるかに早く、4月頃から咲き始めます。
ピッチェリは壺型の中でも特に遅く8月頃に咲きます。

 これは一番花の場合で、花後の剪定によって再び生長を開始し、2か月程度で二番花が咲きます。
クリスパがこれを繰り返すと、三番花あたりでピッチェリの開花と揃うことになります。
ここまで周期的でなくても、ちょっとした生育の遅速で、同時に開花していることは珍しくありません。


 特別に栽培場にネットを張って防虫に努めれば、ハチによる交雑は防げるでしょう。
花粉を媒介するのは主にマルハナバチの類です。
しかしまあ殆どの栽培場はそのような防除をしていません。

 自家受粉も可能な性質なので、結実の全てを虫媒に依っているわけではありません。
壺型クレマチスは雌蕊先熟ですので、花粉より先にめしべが受粉可能状態になります。
(その時おしべはまだ花粉を出していません。)

 人工受粉ではこのタイミングで交配をします。熟練しないとこの適期がなかなか難しい。
他の花の花粉が付く前に、目的の花粉を付けなければなりません。
受精が完了すれば胚として生長が始まり、もう他の花粉がいくら付いても関係ありません。

 自然ではマルハナバチが蜜と花粉を集めながら、絶妙のタイミングでこの仕事を行います。
もしマルハナバチが来なくても、数日のうちにおしべが花粉を出し始めてめしべに触れます。
(ちょっとした風でも)

 栽培棚を見ていると、それでも結実しない花が結構あります。
殆ど全部の花が結実する株もあります。
株の栄養状態とか気温や天候とか条件もあるようです。個体差とばかりはいえないような・・・。


 さて、その交雑の結果を知るのは数年後になるのですが、咲いてみてびっくり、そこで初めて
交雑を知るということになるのです。
受粉作業を人為的に行った人工交配と違い、自然交雑は結果をみてそう推測されるという話なのです。
咲くまでは判らないのです。

 少なくともタネを採った母株は判っているのですから、その子はその母株の種名で呼ばれることになります。
つまり、「クリスパの交雑種」とか「ピッチェリの交雑種」と言うふうに。
英語では crispa hybrid 、pitcheri hybrid と呼びます。


 園芸品種としては両親の品種が明確で、場合によっては追試交配実験によって証明できたりすることが望ましいのですが、現実には多くの品種が母親だけの記載で実生選抜品種として登録されています。

 実生から出現した優れた個体に品種名を与えることは栽培家にとって誇らしいことです。
それが予期せぬ自然交雑であっても喜びに変わりはありません。
ただ、それを自分の栽培場から外へ出す、つまり他所の人達の目に晒すとなれば、
当然作出者としての責任も負わねばなりません。
正体不明では困るのです。


 雑種があるということは他方に純系があってのことです。
しかしもはや私も皆さんも今持っているクリスパやピッチェリが果して純粋の原種であるのかどうかさえ
不明になってしまっています。残念ながらもう既にそうなっているのです。

 ラベルの信用性は相当低いと考えねばなりません。
ピッチェリと書いてあればそれはピッチェリ系くらいに緩く考えた方が良いようです。
 
 他の原種ではどうでしょうか。勿論交雑の可能性は全く同じです。
ただ、他の原種はクリスパ、ピッチェリに比べ花色・花型の変異の幅が狭く、
原種と雑種の見分けが容易につきます。
流通量が少ないことも交雑が進まない原因のひとつでしょう。

ただし今後どうなるかは判りません。




2010.03.16 出典リスト
出典リンクがうまく貼れていませんでした。
改めて引用・出典のsite listを一覧にしておきます。


サイト名 URL Author 内容

American Bells⇒ http://clematisviorna.info/table.html
Carol Lim ヴィオルナ系の品種比較解説

Flora of North America⇒ http://www.efloras.org/index.aspx
eFloras.org 北米の植生・植物解説

USDA PLANTS Database⇒ http://plants.usda.gov/
United Statea Department of Agriculture 北米の植生・植物解説

RHS Plant Finder⇒ http://apps.rhs.org.uk/rhsplantfinder/
The Royal Horticultural Society 原種と園芸種名の検索


Clematis in the Garden Forum⇒ http://www.gardenbuddies.com/forums/clematis/
Gardenbuddies.com 世界的レベルの投稿サイト(会員制)

Lady Bird Johnson Wildflower center⇒ http://www.wildflower.org/
The University of Texas at Austin 主にテキサス州の植生・植物解説

Dave's Garden⇒ http://davesgarden.com/
Dave's Garden 植物解説(別名に詳しい) ナーサリー

The Atlas of Florida Vascular Plants⇒ http://florida.plantatlas.usf.edu/
Institute for Systematic Botany フロリダ州の植物解説




ピッチェリとクリスパの見分け方

このテーマで記事を書くについて、前もって幾つかの注意事項を申し上げさせて下さい。

まず、種の特徴については主にwebを検索して情報を得ました。
出典の各siteは読まれた方が参照できるよう、文末に記しております。

出典元は、米政府の公的機関だったり、財団法人だったり、大学等の研究機関等のほか、
民間のフォーラムや植物園、ナーサリーから個人の園芸栽培家まであります。
ただし、記述の根拠として信頼に足るものでなければ意味がありませんので、
公的機関などオーソライズされたものを主にするようこころがけましたが、
その記述の信憑性について保証するものではありません。

種の特徴について、出典先によって記述が違うということも稀にありました。
細かい検証はしておりません。地域差があることもあると思います。


何度かに分けての連載形式になると思いますが、よろしくお付き合いください。

内容はおおよそ以下の区分で進めていこうと思っています。

1、 クリスパとピッチェリの見分け方
2、 栽培場で起こる交雑の可能性
3、 交雑種と思われる個体あれこれ



ではまず初めに、やはりその見分け方のいくつかについて早速述べていきましょう。

我々が苗を購入する時、北米の自生地から野生のものを手に入れることは極めて難しいのが実状です。
ピッチェリもクリスパも増殖は殆ど実生に依っていますので、
まず100%栽培品と思って間違いありません。
しかし代を継いでの日本国内産なのか、新しく外国産のタネを日本で撒いて育てたのかは
全く判らない状態で流通しています。
勿論最初は現地植物を(恐らくタネで)日本に持ち込んだのは間違いないのですけれど・・・。

後に詳述しますが、純粋原種であるかどうかが疑わしい個体も含まれると考えておいてください。
それでもそれぞれの種の特徴がよく出ているものを知れば、見分けることができるようになります。
 
 クリスパの花の最大の特徴は、花弁(正確にはがく片)が他のどの壺型よりも大きく反転することです。
名の由来となったcrispには何通りかの訳がありますが、細かくカールした、とか波立った、
などの意味に解釈すると、花弁の反転の印象から来ているようです。

 ですがそれよりクリスパは、現地名の方がさらに自生の様子を窺わせるので興味を覚えます。
即ち、現地ではクリスパは、Marsh clematis, curly clematis, blue-jasmine等と呼ばれています。
Marshは沼のことです。つまり「沼地のクレマチス」という通称なのです。
他の2つはカールしたクレマチスとか、青い(青紫の)…ジャスミ芳香があることを示しています…
等と呼んでいるようです。

「沼地のクレマチス」、これこそがクリスパの最も着目すべき特徴であり、性質なのです。

USDAでClematis crispaを検索すると、分布域の地図が出ます。北はイリノイ州、東はノースカロライナ、
西はテキサス、南はフロリダまで。
一方ピッチェリは、分布域を図面で見る限りは東方面を除き、クリスパとかなり重なっています。
ただしそれは地図を水平的に見ているからで、垂直的に見ると、
つまり高度分布ではピッチェリとクリスパははっきりと棲み分けているのです。

American Bells によればピッチェリは、(高度のある)森林地帯で石灰岩質の乾燥した環境に
自生していると書かれています。

片や沼地、片や山岳地帯。
不思議なことにどちらにも耐暑性・耐寒性があり、日本においては年中露地栽培が可能ですが、
本来の自生地では高温多湿のクリスパと冷涼乾燥のピッチェリなのです。


 花だけでなく、春の芽出しの頃に気づかれると思いますが、クリスパの方が明らかに芽の伸長が早く、
ピッチェリはかなり遅いのでこれも判別する手掛かりのひとつです。

葉は特徴がつかみにくく双方の違いを的確に言い当てることができません。
Flora of North America ではピッチェリの葉には明瞭な網目模様があって、
それをもってreticulata に非常に近い種類だと書いています。

前出American Bells はversicolor に近縁だが、versicolorより網目模様が明瞭だと言っています。
ですが私が栽培している範囲では、葉だけを見てこれはピッチェリだと断定する自信はありません。


クリスパとピッチェリ、またその近縁の北米原種の壺型クレマチスは
自生地でさえ個体変異がさまざまにあるようで、
特にピッチェリの花色の変異について多くの研究者が指摘しています。
花色だけで判断するのは根拠として弱いと考えてください。


 さらに混乱させる話かも知れませんが、避けて通れないので一応指摘をしておきます。
我々が苗を入手する時、それがクリスパとかピッチェリとかはその苗についている
ラベルを信じるしかありません。
もし、生産者が間違えたり、販売者に知識がなかったりすれば、
間違ったものを買ってしまっているかもしれません。普通それを疑ったりしませんけど。

ですがその結果、品種が違うことに気づかぬまま何年も栽培し、播種し、実生を育てていることが
あるかもしれません。
また、自分自身が鉢上げや植替えの時にラベルを取り違えることも皆無とは言えません。


話は脱線しますが、pitcheri の日本語表記についてちょっとふれておきます。
私は「ピッチェリ」と呼んでいますが、「ピッチャリ」とか「ピッチュライ」とか呼ぶ方もいらっしゃいます。
どれが正しいかをついつい決めたくなりますが、調べてみると事は簡単ではありませんでした。

名前の由来は人名で、Zina Pitcher ジーナ・ピッチャーと読むのでしょうか。(男性です。)
1797年生まれ1872年没、アメリカの薬学者で教育者で政治家でした。
デトロイトの市長を務めた人でもありました。
彼に因んで名づけられた植物はクレマチス以外にもアザミの仲間やセージの仲間などがあります。

さてその読みですがピッチャーにそれに因むの意の“ i ”がついているので、
「ピッチャリ」と呼んでも間違っているとは言えないようです。(日本語としては不自然ですが…)

この学名をどのように発音するか(発音記号ではなく)既存の単語をつないで表記したサイトを
見つけました。
そこにはPIT-chur-eye とあり、そのまま読めばピッチュrアイ」です。
「ピッチュライ」と読めるではありませんか。


ホントかな?と思われる方、確かめるには、以下のURLへ
http://museum.utep.edu/chih/gardens/plants/clematispitcheri.htm
うまくいけない場合は、
メニューのなかのDesert Gardens ⇒Chihuahuan Desert Plants ⇒
その中のplant-list pages のリンクからCの項目のclematis pitcheriを開きます。

エル・パソ訛りと言う訳ではないでしょうが・・・。「ピッチュライ」もあり、なんですね!



次回は好むと好まざるとに拘わらずの、交雑という厄介な話をしなければなりません。
ちょっと気が重いですけど…。





2010.03.08 春のスイッチ
3月になりました。暖かい日と寒い日の差が激しい日が続きます。
植物は一旦スイッチが入ってしまうと余程の凍結でもない限りは生長を止めません。
一斉に伸びてきました。



実生苗たちも、越冬したのと新しく頭を出したのとでますます混み合ってきました。
ウドンコの病痕を残したままの株もありますが、今の気温では発症することはないでしょう。

冬越し後の展葉



テキセンシス初の実生発芽もここまで大きくなりました。

ここまで大きくなりました



空蝉です。
何かの不調で蕾がひけたのが一芽ありますが、他は越冬蕾を抱えています。
この性質(蕾で越冬する)からも、紫の上の交雑種であるのは間違いないようです。

空蝉2010



紫の上です。
毎年必ず蕾を持って芽をあげてきます。
紫の上自身も何かの交雑種だからなのかも知れませんが、
世界の原種を網羅した文献には全く記述がありません。類似したものもありません。
どこから来たのでしょうか。いつまでも謎です。
作って売った人が明らかにしてくれるのが一番正確なんですが・…。

紫の上2010



その他は今日の庭の様子です。

タカネハンショウヅルの展葉。
タカネハンショウヅル

不動。芽数が増えました。
不動2010

淡雪の君。
淡雪の君2010



蕾が見えるのは
ペトリエ
petriei2010.jpg

アーマンディ
armandii2010.jpg